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バックネル大学TA通信(2023年12月)


バックネル大学TA奨学生制度は、国際文化学科の学生をアメリカ?ペンシルベニア州のBucknell Universityに日本語のティーチング?アシスタント(TA)として9ヶ月間派遣するプログラムです。TAと言っても補助的な役割ではなく、現地学生が受講する日本語の授業を、一人の教師として授業計画から試験の採点まで担当します。
また、学生として自分の好きな授業を各学期1科目履修することができるので、プログラム参加者はTAの仕事と受講する授業の両立に悪戦苦闘しながらも、充実した日々を過ごしています。

2023年8月からの第19期生には、大和礼奈さんと小竹若菜さんの2名が参加しています。
渡米から4ヶ月たった現地での近況を聞いてみました。

日本語学科のオフィスにて(左からロフグレン先生、アームストロング先生、小竹さん、大和さん)

日本語学科のオフィスにて(左からロフグレン先生、アームストロング先生、小竹さん、大和さん)

バックネル大学のTA?留学生たちと(事前オリエンテーション中に訪れた遊園地にて)

バックネル大学のTA?留学生たちと(事前オリエンテーション中に訪れた遊園地にて)

オリエンテーション後のパーティーで

オリエンテーション後のパーティーで

各国のTAと休日に寮の庭でホームパーティ

各国のTAと休日に寮の庭でホームパーティ


【 1週間のスケジュール 】

私たちは、日本語の会話形式を中心とした初級クラス(Recitation 101)と、中級クラス(Recitation 103)の2種類のクラスの授業を担当しています。授業は月?水?金にあり、それぞれ各4コマずつあります。初級クラスと中級クラスを合わせて約40人の生徒が日本語を勉強しています。
またこれとは別に、火?木に開講される文法学習を中心とした1年目向けと2年目向けの2種類のクラスに参加しています。
これまでは、アームストロング先生が教室の隅で授業を見守って下さっていたのですが、4カ月経った今では、初級クラスと中級クラスの授業を完全に一人で任せていただけるようになりました。
授業前の準備から片付けまで全てを自分で行うことは大変ですが、着実に仕事に慣れTAとして自立してきている実感があります。

週間スケジュールの一例

週間スケジュールの一例

【 授業で心がけていること 】

日本語を視覚的に捉えてもらう

クラスのルールとして、習った日本語しか授業内で使うことができないので、特に日本語が全く分からない初級クラスの生徒に日本語を教えることは容易ではありません。ジェスチャーやアイコンタクトなどのボディランゲージと、絵カードなどの道具を活用して、できるだけ視覚的に日本語を捉えてもらえるように意識しています。

絵カードを用いて(大和さん)

絵カードを用いて(大和さん)

自作のスライドでポイント説明(小竹さん)

自作のスライドでポイント説明(小竹さん)

双方向のコミュニケーションを意識

初級?中級両クラスに共通することですが、TA=話す人、生徒=聞く人という一方向の流れではなく、TAと生徒や生徒同士の対話を促し、双方向のコミュニケーションを行うことを意識しています。TAばかりが話し続けるのではなく、生徒に積極的に問いかけをしたり、時には答えを待ったりすることで、できるだけ生徒が自分で考えて解決する機会を作っています。

生徒同士の対話を促し、双方向のコミュニケーションを意識(大和さん)

生徒同士の対話を促し、双方向のコミュニケーションを意識(大和さん)

入念な授業プラン作成

堂々とした授業を一人で行うためには、良い準備が欠かせません。過去の先輩方の事例を参考にしつつ、テキストの「げんき」を読み込んで詳細なレッスンプランを作ります。ただ、レッスンプランを作ると言っても概要を単に書き記すだけでなく、目標設定(生徒ができるようになってほしいこと、クラスや生徒に合ったレベルの調節)、時間配分(各ワークの流れの把握、飽きさせないような順序の工夫、時間が余った時の対応)、教材の活用方法(フラッシュカードの配置、教材を使ったワークの際の指示の仕方)など、考慮すべきことがたくさんあります。

十分な事前準備で授業に臨む小竹さん

十分な事前準備で授業に臨む小竹さん

授業後に反省点を洗い出し日々改善を

たくさん準備をしたにも関わらず、当日うまくいかない時もあります。想定していた以上にワークに時間がかかり過ぎてしまったり、指示の仕方が曖昧で生徒に十分に伝わっていなかったり。そういう時は、授業の後にしっかり自身の反省点を洗い出し、生徒の様子を分析し、日々改善を図っています。
もちろん、授業がうまくいって生徒が楽しそうに授業に参加してくれたり、出来が良かったりした時の喜びはひとしおです。

【 課題:習熟度に差がある生徒全員をいかにして授業に巻き込むか 】

特に初級クラスで、最近生徒の日本語レベルの差がつき始めていると感じることがあります。例えば、先日実施したライティングとリスニングのテストで100点満点を取る生徒がいる一方で、0点の生徒がおり、習熟度に大きな差があることが分かりました。
またテストだけでなく授業でも、ひらがなとカタカナを完璧に覚えて話すことができる生徒がいる一方で、未だに文字を覚えきれておらず話せない生徒がいます。1つのクラスで、どのように言語能力が違う生徒全員を巻き込むことができるのか、というのが今後の課題になってくると思います。

生徒同士で助け合えるよう工夫

クラスでは原則生徒同士で間違いを直させるという方針のため、生徒がつまずいた際には、できるだけ答えが分かりそうな生徒に解答を回すようにしていますし、ペアワークではできる生徒とできない生徒を組ませて助け合えるようにしています。

オフィスアワーの活用

生徒たちが相談に訪れる「East Asian Studies」オフィスのネームプレートの前で(左:大和さん、右:小竹さん)

生徒たちが相談に訪れる「East Asian Studies」オフィスのネームプレートの前で(左:大和さん、右:小竹さん)

授業についていくのが難しそうな生徒には、TAや先生のオフィスアワーを活用してもらうようにしています。
毎週、平均して4人ほどの生徒が私たちのオフィスアワーに来て、一緒に日本語の復習をしたり日本の文化を学んだりしています。

「できた!」と思える瞬間を

生徒に「できた!」「おもしろい!」と思ってもらえるような 瞬間を多く作るようにしています。例えば、簡単な質問を授業の合間に投げかけたり、答えられなかった質問を、時間が経った後にもう一度同じ生徒に当てたりするなどです。答えられた時にはしっかり良いリアクションをして、「いいですね!」と褒めることを心掛けています。

日本語を少しでも身近なものに

日本語を少しでも身近に感じてもらえるように、生徒が最も興味のあるアニメや日本食をクラスに取り入れたりしています。

生徒一人一人に、折り紙で作ったメッセージカードと漢字の名前をプレゼントしました!

生徒一人一人に、折り紙で作ったメッセージカードと漢字の名前をプレゼントしました!

初級クラスの授業で書道をしました!

初級クラスの授業で書道をしました!


【 TAを通して学んだこと 】

先生方から教わった事は非常にたくさんありますが、その中で共通していることは「限りある時間の中で、最大限生徒の主体性を引き出すこと」だと考えています。
例えば、文法や発音にミスがあった場合や生徒が答えに迷っていた場合に、TA がミスを直してはならず、正しい答えが分かる他の生徒に即座に当てなければなりません。単に正しい日本語を学ぶだけでなく、生徒同士で教え合うことによって自身の間違いに気づかせる訓練の意味が含まれているのです。そしてクラスの時間は50分と短いので、1分1秒でも無駄にすることができません。誰も話していない時間を作らないために、スムーズかつ連続的な授業スタイルが求められています。
また、生徒に日本語で答えてもらう際、個別にランダムに当てることを意識しています。それは、いつ自分が当たるか分からないという適度な緊張感と生徒の集中力を高めるためです。
このような先生方の教えを、頭では分かっていても実践するとなるとなかなか難しいのですが、先生方のフィードバックの1つ1つを大切にしながら日々改善を重ねています。

大学構内で(左:大和さん、右:小竹さん)

大学構内で(左:大和さん、右:小竹さん)


【 学生として履修している講義について 】

「Foundation of Education」(大和さん)

この授業では、現代のアメリカの教育システムや教育機関を社会学的な視点から探求します。授業では、回を重ねるごとに視野がミクロからマクロへと広がっていくので、教育機関とアメリカ社会がどのように関わっているのかについて包括的に理解することができます。
例えば、初めは生徒の立場に立って、英語を第二言語とする生徒や移民、マイノリティの生徒達が学校で直面する障壁について考察をします。
次に教師としての役割に焦点を当て、教師の主体性や学習環境の整備について考えたり、カリキュラム作成者の視点から多様なニーズに合わせた方針づくりについて考えたりします。
最終的にはアメリカ社会全体を俯瞰(ふかん)し、貧困や人種、母語、出生地などの要因と教育機会の不平等との結びつきについて理解をします。これらのトピックはTAの仕事と密接に関連しているので、学んだことを実践に活かせることが多いです。
また、クラスでは積極的な議論が奨励され、毎回小さなグループやクラス全体でトピックについて意見を出し合います。議論に参加するためには数十ページのテキストや論文を読み込む必要があるので大変ですが、異なる文化的背景を持つ学生と話すことで新しい視点を得ることができるため、得られる学びは非常に大きいです。
さらに、40分間の模擬授業やグループ活動を通して知識をアウトプットする機会が豊富にあるため、知識を得るだけでなく、実践的なスキルも磨かれるのがこの授業の特徴です。

Educationの授業にて。さまざまな国のシンデレラの絵本を読み、文化的配慮や言語的配慮について考えました

Educationの授業にて。さまざまな国のシンデレラの絵本を読み、文化的配慮や言語的配慮について考えました

「Educational Psychology」(小竹さん)

講義名にあるように教育心理学を学ぶ授業ですが、教育者としての心構えや生徒との向き合い方について理論的に理解すると同時に、心理学の実践も重視したクラスになっています。
週に2日、火曜日と木曜日にある授業のうち、火曜日は発達理論や各教育法について理論的に学習をします。教授の講義を聞く時間もありますが、毎回必ず何らかのグループアクティビティが設置されます。グループディスカッションや教育理論を理解するための実践アクティビティ、プレゼンテーションなどをします。そして木曜日には生徒が実際に30~40分の授業を構成するClass Facilitationが行われます。
予習?復習としては、テキストを週に40ページ程度読んで理解度を図る質問に答えたり、講義で学習した理論を踏まえた模擬授業(想定される生徒の質問に対する回答)を提案したり、前回の授業の内容を要約、発展させてクラスでプレゼンをしたりする課題が提示されます。通常の課題に加えて、自分自身の発達段階を分析したり、実際に自分でレッスンプランを作成したりすることもありました。授業内では主にグループディスカッションやグループプレゼンの時間が設けられ、講義やビデオ教材を通して考えたことや教育現場での活用方法をクラスメイトと共有します。
数ある教育系の授業の中でも特に、教師の目線から教育全般を見直し、具体的な実践方法について学ぶことのできる授業です。

【 教職との関連性 】

名市大で教職を受講している人は、渡航前にある程度教職科目を履修することになると思います。教職概論をはじめ、教育心理学や教育法(A~D)の講義を通じた学習は、バックネル大学でTAとして活動するうえでも非常に役に立っていると実感しています。
特に私が感じている成果は2つあります。ひとつは、教師としてレッスンプランを考えたり授業を実践したりすることに慣れているということ、そしてもうひとつは、教職科目で得た知識がバックネル大学で教育系の授業を受講するときにも活かせるということです。
教職科目の中でも特に教育法の授業では模擬授業を繰り返し行うため、実践力を鍛えることができます。適切な授業目的や授業プランを考えたり、生徒に合わせた効果的な教育メソッドを演習したりするため、日本語TAとしての仕事にも直結します。将来教員を志望する人にとっては特に、TA(実際の教師)として働く10ヶ月間の経験は教育者としても成長できるとても有意義な期間です。
また、各学期に1単位ずつ履修する授業においてEducationの分野を選択する場合、渡航前に学習した内容と重複する部分があるためより深く理解することができたり、日本の教育制度とアメリカの教育制度の類似点や相違点をより専門的に比較できたりします。

秋晴れに生える校舎

ライトアップ

バックネル大学のきれいな秋晴れとライトアップの様子