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シロスタゾールに、くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮による脳梗塞を減少させる効果!~全国アンケート調査~


くも膜下出血後に発生する遅発性脳血管攣縮※1の予防や治療のための使用薬剤や管理方法は全国で統一されておらず、各施設で様々である。そこで、全国の日本脳卒中の外科学会技術指導医、技術認定医の在籍する施設に対してアンケート調査を実施し、2021年時点でのくも膜下出血に対する施設の治療方針、術後管理方法、脳血管攣縮に対する予防的薬剤の使用方法、発生時の対処方法に関する実態を明らかにした。9種類の脳血管攣縮に対する薬剤中では、シロスタゾールの単剤もしくは併用投与が脳血管攣による脳梗塞を減らしていることを確認した。

研究成果の概要

本研究は、365体育投注 脳神経外科学講座 間瀬光人教授が研究代表、西川祐介助教が主となり、SAH/スパズム?シンポジウム学会と日本脳卒中の外科学会の協力を得て、日本脳卒中の外科学会技術指導医もしくは技術認定医に対して2022年11月にアンケート調査を実施した。2021年1月から12月の一年間に、全国の病院で治療を受けたくも膜下出血患者のうち、破裂脳動脈瘤に対して発症から72時間以内に急性期治療が行われた患者を対象とし、急性期治療の詳細を質問した。
158施設におけるくも膜下出血患者3093人のうち、遅発性脳血管攣縮による脳梗塞は281人(9.1%)であった。開頭クリッピング術※2を受けた1401人中では165人(11.7%)であったのに対して、脳血管内治療※3を受けた1692人中では116人(6.8%)と遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発生頻度が有意に低いことが明らかとなった。
また、脳血管攣縮に対する薬剤の中では、シロスタゾールと塩酸ファスジルとスタチンの3剤併用療法が最も遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発症率が低いことを初めて明らかにした。
本研究成果は、2023年3月16日にパシフィコ横浜で開催された第39回SAH/スパズム?シンポジウム(会長:間瀬光人)と2023年10月26日にパシフィコ横浜で開催された日本脳神経外科学会第82回学術総会において、西川祐介がシンポジウムで講演発表するとともに、『Frontiers in Neurology』に掲載された。

背景

くも膜下出血は、死亡率が高く、意識障害や片麻痺、失語症など重症の後遺症を来しやすい疾患である。破裂脳動脈瘤に対する再破裂予防の急性期治療が上手くいっても、その後2週間以内に発生する遅発性脳血管攣縮によって新たに脳梗塞を発症して、重症な後遺症を来すことがあるため、各施設で様々な術後の管理?治療が行われている。脳卒中治療ガイドラインでは、様々な治療方法、脳血管攣縮に対する薬剤が推奨されており、標準化されていない。遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発症率や、予防的治療方法や使用薬剤の地域格差についての全国調査はこれまで行われていなかったため、SAH/スパズム?シンポジウム学会と日本脳卒中の外科学会の協力を得て、全国の日本脳卒中の外科学会技術指導医、技術認定医の在籍する施設に対してアンケート調査を実施した。

研究の方法

対象は、日本脳卒中の外科学会技術指導医、技術認定医の在籍施設(病院)とし、2021年1月1日から2021年12月31日までの期間で発症から72時間以内に破裂脳動脈瘤に対して再破裂予防の治療を行ったくも膜下出血の患者について、治療内容の詳細を質問するアンケート調査をGoogle formを用いて実施した。個々の患者の年齢や性別、くも膜下出血の重症度や治療内容などの個人情報は収集しなかった。また、個人が特定される可能性を考慮して回答された病院名も収集せず、代わりに病院の所属する地域を質問した。遅発性脳血管攣縮に対する予防的に使用した薬剤については、塩酸ファスジル、オザグレルナトリウム、シロスタゾール、エダラボン、スタチン、ステロイド、ニカルジピン、クラゾセンタン、EPA製剤の9種類(複数回答可)の使用状況を質問した。

研究の成果

日本脳卒中の外科学会技術指導医、技術認定医が在籍する553施設にアンケート調査を依頼し、162施設(29%)から回答を得た。不十分な回答であった4施設を除外し、158施設のくも膜下出血患者3093人を解析対象とした。3093人中、遅発性脳血管攣縮による脳梗塞は281人であり、発生率は9.1%であった。破裂脳動脈瘤に対して再破裂予防目的に開頭クリッピング術を受けた1401人中では165人(11.7%)、脳血管内治療(コイル塞栓術)を受けた1692人中では116人(6.8%)が遅発性脳血管攣縮による脳梗塞を発症し、脳血管内治療(コイル塞栓術)の方が有意に少なかった。また、約8割の施設で、くも膜下出血に対して何らかの髄液ドレナージが行われていたが、脳血管内治療(コイル塞栓術)選択時は、約8割が腰部くも膜下腔ドレナージが行われていた。
遅発性脳血管攣縮に対する予防的に使用した薬剤については、塩酸ファスジルが回答した全ての施設で使用されており、次いでシロスタゾール(57%)、オザグレルナトリウム(55%)、スタチン(33%)で、その他は3割以下の使用率であった。地域差では、近畿地方と中国四国地方で遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の頻度が高く、関東地方がシロスタゾールの使用率が低く、オザグレルナトリウムの使用率が高かった。9種類の薬剤の中では、シロスタゾールのみが単独投与での有効性が示され、シロスタゾール以外の予防薬を使用した群と比較して遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発症率が50%以下であった(オッズ比:0.48, p値:0.026)。さらに、シロスタゾールと塩酸ファスジルとスタチンの3剤併用が最も遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発症率が低かった(オッズ比:0.38, p値:0.005)。

研究のポイント

  • 全国アンケート調査で、2021年の一年間のくも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発症状況、予防的治療方法、使用薬剤等について調査を行った。
  • 破裂脳動脈瘤に対する脳血管内治療(コイル塞栓術)が、開頭クリッピング術よりも遅発性脳血管攣縮による脳梗塞の発症率が有意に低かった。
  • 遅発性脳血管攣縮による脳梗塞に対して、様々な治療薬が全国で使用されているが、シロスタゾールが唯一、有効な薬剤であった。

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

くも膜下出血後に発症する遅発性脳血管攣縮は、大きな後遺症を来す可能性が高く、その克服に向けて、長年多くの研究が行われ、多くの薬剤の有効性が報告されてきた。脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023]においても、様々な治療方法、脳血管攣縮に対する薬剤が推奨されており、未だ標準化されておらず、全国で様々な治療が行われている。これまで、くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮に対する治療、使用薬剤の地域性や発症率等を調査する全国アンケート調査は実施されたことはなく、本調査研究により2021年時点での実態が明らかとなった。9種類の薬剤の中で、シロスタゾールと塩酸ファスジルとスタチンの3剤併用が遅発性脳血管攣縮による脳梗塞に対して最も有効性が高いことが示された。2022年に新たにクラゾセンタンが保険収載され、使用頻度が高まっているが、他の遅発性脳血管攣縮に対する予防薬との併用については未知である。今回の全国アンケート調査の結果は、最適な予防薬の組み合わせを検討していく上で参考になると考えられる。

用語解説

※1 遅発性脳血管攣縮:くも膜下出血をおこしてから3日目から2~3週間までの間に起こる現象で、脳の血管が収縮して血液の流れが悪くなり脳梗塞を起こす。攣縮とは、血管が縮んで細くなることでスパズムとも呼ばれる。
※2 開頭クリッピング術:脳動脈瘤の破裂を予防するための開頭手術。動脈瘤の頸部にクリップをかけて血流を遮断し破裂しないようにする。
※3 脳血管内治療:脳血管障害に対して行うカテーテル治療の総称。くも膜下出血を起こした脳動脈瘤に対する脳血管内治療は、カテーテルを介して動脈瘤内部にコイル(プラチナでできた柔らかい糸)を充填させ血流が入らないようにするコイル塞栓術という。

論文タイトル

Japanese nationwide questionnaire survey on delayed cerebral infarction due to vasospasm after subarachnoid hemorrhage

著者

西川 祐介1)*、山田 茂樹1,2)、内田 充1)、山中 智康1)、林 裕樹1)、片野 広之1)、谷川 元紀1)、岩間 亨3)、飯原 弘二4)、森岡 基浩5)、間瀬 光人1)

所属
1;365体育投注 脳神経外科学講座
2;東京大学大学院 情報学環 生産技術研究所
3;岐阜市民病院 脳神経外科
4;国立循環器病研究センター 脳神経外科
5;久留米大学 脳神経外科
(*:Corresponding Author)

掲載学術誌

学術誌名:Frontiers in Neurology
DOI番号:10.3389/fneur.2023.1296995.