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水素ガスは脂肪組織の病態を改善する?ヒトの脂肪組織を用いて水素投与療法のメリットを証明?


研究成果の概要

365体育投注大学院医学研究科(心臓血管外科)の山田敏之講師と須田久雄教授らの研究グループは、愛知学院大学(歯学部内科学講座)の中村信久准教授(本学客員准教授)と成瀬桂子主任教授及び愛知みずほ大学(人間科学部)の松原達昭教授との共同研究において、水素投与療法の新たな効果を解明しました。
心臓外科手術の際に採取した患者の皮下脂肪組織を高濃度溶存水素に直接投与したところ、脂肪組織の酸化ストレスマーカー※1の低減作用を認めました。さらに脂肪組織及び脂肪サイズの縮小効果と、脂肪細胞分化やインスリン抵抗性に関与するアディポサイトカイン※2であるケメリン※3の発現を有意に抑制することを証明しました。
水素ガスの医学的応用については慶應義塾大学を中心に日本が世界に先駆けてリードしている分野です。水素ガス吸入療法が循環器疾患における救命率を向上させることが注目され、水素ガス吸入療法の治験が次々と進んでいますが、これまで水素分子のヒトの臓器への直接効果を評価したデータはありませんでした。そこで、慶應義塾大学の共同研究者でもある山田敏之講師と、酸化ストレスマーカー研究の豊富な知見を有する中村信久客員准教授がタッグを組み、水素ガスのヒトの臓器への直接効果を評価する研究を計画しました。水素ガスのヒトの臓器(今回の研究では脂肪組織が対象)に対する基礎医学研究については未知の領域で、今回の研究成果が初となります。
本研究は、脂肪組織に対する水素投与療法の新たな分子メカニズムの理解につながるトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)であり、酸化ストレスに起因する循環器疾患をはじめとした救急医学、さらには肥満やメタボリックシンドロームに関連した生活習慣病への医学的貢献が期待できます。
この論文は、モンゴル国から本学に留学した大学院生のBatkhishig Tumurbaatarを筆頭著者、客員准教授である中村信久を責任著者として国際雑誌『Scientific Reports』の web サイトに 2024年9月13日に掲載されました。

研究のポイント

  • ヒトの皮下脂肪組織を高濃度水素に直接投与した世界で初めての研究です。
  • 脂肪組織の酸化ストレスマーカーの軽減作用を溶存水素が直接起こすことを証明しました。
  • 溶存水素の投与によって脂肪組織及び脂肪サイズの縮小効果を認めました。
  • 悪玉サイトカインであるケメリンの発現を溶存水素が有意に抑制しました。
  • 本研究は水素ガスの救急医療や集中治療、生活習慣病対策への貢献が期待できます。

背景

近年、水素ガス吸入療法が循環器疾患における救命率を向上させることが注目され、厚生労働省の先進治療の一つとして認可されました。水素の医学的応用については日本が世界に先駆けてリードしている分野であり、水素ガス吸入療法の治験が次々と進んでいます。しかしながら、水素分子のヒトの臓器への直接効果を評価したデータは無く、水素の多面的効果のなかでも特に脂肪組織に対する基礎医学研究については未知の領域でした。そこで本研究グループは、高濃度の溶存水素濃度を発生するデバイスを用いて、酸化ストレス反応の調節、脂肪組織の形態学的影響、アディポサイトカインの発現調節に着目して、脂肪組織に対する水素の影響を検討しました。
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研究の成果

本研究では、心臓血管外科手術を受けた患者の同意のもと、皮下脂肪組織を採取しました。水素ガスを溶かした培養液にこの脂肪組織を浸し、水素の影響を評価しました。酸化ストレスのマーカーである核赤血球2関連因子2(Nuclear factor erythroid 2-related factor 2:Nrf2)※4とその転写産物であるヘムオキシゲナーゼ-1(Heme oxygenase-1:HO-1)※5を免疫染色にて評価したところ、水素添加群ではNrf2及びHO-1の発現レベルが有意に低下していました(図1)。つぎに水素添加の前後で脂肪組織の重量を測定し、脂肪組織の画像解析の結果、脂肪組織重量及び脂肪細胞サイズの縮小を認めました(図2?3)。

図1

図2

図3

さらに、水素添加脂肪組織では、脂肪形成に関与するアディポサイトカインであるケメリンの遺伝子発現量が減少することを認めました(図4)。これらの結果は 脂肪組織における酸化ストレスに対する水素の基礎医学的効果を支持し、脂肪細胞のサイズを縮小させる治療可能性を示唆しました。

図4

研究の意義と今後の展開や社会的意義など

本研究成果は、水素ガスの臨床医学的効果を支持する画期的な基礎研究成果であり、水素医学研究における数少ない重要なトランスレーショナル(橋渡し)研究です。日本から水素の基礎医学的根拠を世界に発信する社会的意義は非常に大きいと考えられます。また、本研究は持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の第3分野(すべての人に健康と福祉を:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)に資する研究成果です。
【用語解説】
※1 酸化ストレス:からだの中で活性酸素種が過剰に産生される状態をしめす。活性酸素種は細胞を傷つけることで、心血管疾患やがん、糖尿病など様々な病気の発生に関わるとされている。
※2 アディポサイトカイン:脂肪細胞から主に分泌される生理活性物質(サイトカイン)。悪玉と善玉があり、そのバランスが崩れると生活習慣病(肥満や糖尿病、高血圧)になるリスクになるとされている。
※3 ケメリン:悪玉アディポサイトカインの一つ。脂肪細胞の分化を促進する一方、インスリン抵抗性を介し動脈硬化のリスク因子として知られている。
※4 Nrf2(Nuclear factor erythroid 2-related factor 2):細胞内に発現するタンパク質。酸化ストレス状態で増加し、HO-1などの抗酸化物質の産生を促進する。
※5 HO-1(Heme oxygenase-1):Nrf2によって発現が促進されるタンパク質。酸化ストレス状態で増加し、抗酸化物質として作用する。

【研究助成】
本研究は、科学研究費助成事業の若手研究(19K18189)、基盤C(22K08948)により遂行されました。

【論文タイトル】
The effect of hydrogen gas on the oxidative stress response in adipose tissue.

【著者】
Batkhishig Tumurbaatar1、小川真司1,2 、中村信久1,3* 、山田敏之1,4 、湊智美3,5 、森義晴1,2 、齊木智一3,6 、松原達昭7 、成瀬桂子3 、須田久雄1
(*Corresponding author)

【所属】

1 365体育投注大学院 医学研究科 心臓血管外科
2 豊川市民病院 心臓血管外科
3 愛知学院大学 歯学部内科学講座
4 365体育投注365体育投注附属みどり市民病院 心臓血管外科
5 愛知学院大学 歯学部附属病院 検査部
6 愛知学院大学 歯学部附属病院 薬剤部
7 愛知みずほ大学 人間科学部

【掲載学術誌】
学術誌名 Scientific Reports, (2024) 14:21425
DOI 番号:10.1038/s41598-024-72626-2